卓球考-02

【小野誠治の勲章、たかが卓球されど卓球の序説】

彼は隔離室で半強制的に木工作業をさせられていた。中国人労働者に混じっていたのは彼一人であった。
時刻は日没に近い初夏のころであった。
ラジオは丁度 卓球の1979世界選主権の模様を隔離室全体に聞こえる程度に音量は上がっていた。
卓球場はこの場所から十キロの近くにある平城市の体育館である。
日本人の小野誠治と中国人の郭躍華の決勝戦である。
管理者は中国人が優勝するとみて中国人の労働者向けにラジオをながしていたのである。
聴衆者の中にいた日本人とは福井県日本海沿岸で拉致された蓮池薫氏である。
その10ヶ月まえ不条理この上ない拉致にあったのである。
拉致後この隔離室で作業を半強制的にさせられていた。
氏にとってはなぜこのような理不尽な目にあうのか四面楚歌どころではない 
10面楚歌の絶望の底辺にいたのである。

そのなかでふと耳に入ってきたのは小野誠治の世界卓球決勝戦である。
そして日本人として必至に小野誠治を無言で応援しそして小野は優勝したのである。
蓮池氏にとってはこの優勝はまさに絶望から勇気というターニングポイントを得た一瞬だったのである。
たかが卓球ではない、絶望に瀕している日本人の魂に火を灯したのである。
以来二十数年間管理体制化肉体はぼろぼろに蝕まれながら魂は何にも屈しない自由を得、苦節の後ついに 日本に帰ってきたのである。そして小野もまた世界チャンピオン獲得後その栄光を背に日本の卓球界を引っ張ってきたのである。
小野の頭には勿論 平城の蓮池のことなどまったくなかった。
さらに時が立ち2014年になり雑誌「卓球王国8月号」で二人の対談が企画され思い十分二人の卓球魂の話が展開されることになった。

たかが卓球ではあるが魂を揺さぶる卓球談義ではあった。続きは卓球王国をみて頂きたい。(一某老人)